ストラグル 〜struggle〜

第三部 ノルズリ〜Norsri〜
著者:shauna


王宮北門前広場において・・・
空が紫色に輝く朝。
不安な空の色を眺めつつ、アリエスは空に向けて一発の手筒花火を打ち上げた。
恐ろしいほど静まり返ったその空間に響き渡るのは戦いを待つ兵士達の雄たけびだけ。
遺憾だが、こういう空気は嫌いでは無い。
緊張感と負の感情に満ちた空間はアリエスの戦闘欲を否応なしに駆り立てた。
「フィンハオラン卿!」
大きく深呼吸をしていたアリエスに向こうから走ってきた兵士が話しかける。
「報告します。」
「ああ・・。」
「敵はフェルトマリア卿の読み通り、一万八千弱です。しかしながら、敵の中に4人程屈強そうな者を見つけたと監視役が申しておりました。内、3人は、槍、ナイフ型のスペリオルを所持しており、後の一人が魔法の杖のようなものを持っているとの報告です。」
「・・・わかった。ありがとう。後、近くに敵の全軍が見渡せる場所はないかな?」
「塔にご案内します。」
兵士に案内されアリエスは監視塔へと昇る。
そして、中にいた兵士の敬礼を受けてから敵の全軍を目の当たりにした。
「・・多いな・・・」
シルフィリアも随分と無茶を言う。口では一万八千と簡単に言えるが、それは軽く城門前の北の広場を埋め尽して余りある程の数だ。
まずは今回のメインターゲットである司令官を探す。
頭さえ潰してしまえば、軍は意外と脆い。
何かを殺したければまず頭を狙えというのはジュリオの言葉だが、確かにその通りだ。
眼を凝らして司令官を探す。
・・・がどこにも見当たらない。
「チッ!」
小さく舌打ちしてから過去の事例からすぐにアリエスは判断した。
おそらく司令官はここにはいないのだろう。どこか隠れた所で戦闘の指揮をとっている。では一体どこで・・・・
この状況に置いて戦場の状況を見ることが出来、さらに、そこから客観的に戦闘を指揮しやすい場所。・・・。
そんなことが出来る場所は・・・
―まさか!?―
アリエスがすぐに後ろの建物を振り返った。
巨大に聳え立つ真っ白な城。
元エーフェ皇国の王城―ラビアンローズ城―外見は違えど、この本宮の内部はデザイナーが同じため、スペリオル聖王国の城とほとんど同じ造りをしている。
「まさか城内に!?」
アリエスが城を睨みつけた。
しかし、今はそんなことを気にしている時間はない。
今はとにかくこの下らない戦闘を早く終わらせることが先だ。



東の空に花火が上がった。



アリエスは腰から刀を抜く。
シルフィリア特製の刀。
その名は、”ナルシル”・・・。
「折れず、刃毀れせず、抜群の切れ味と扱いやすさを持つ刀」ということをシルフィリアに注文し、苦難の末にようやく完成した究極の刀剣だ。
エアブレードにすることは様々な理由からできない為、スペリオルの性能自体はそこいらの刀剣とさして変わらない。
しかし、斬れ味と頑丈さという二点においてこの刀は少なくともアリエスが今まで出会った刀剣すべてを遥かに凌駕する。
エアブレードなんか比べ物にならない・・・太陽(アナー)と月(ルシル)の名を冠する絶対の剣。
それを抜いて、アリエスは高々と宣言した。
「我は聖蒼貴族!アリエス=フィンハオラン!!」
敵兵士全員の目線がアリエスに注がれた。
「最初に言っておく。もし私に掛かってくる相手が一兵卒であるなら大人しく身を引くが良い。時間の無駄だ。」
ざわつき、抗議する兵士達にアリエスはさらに言葉を続けた。
「しかし、貴様らのような者達には俺の言葉は届かんだろう!!さすれば、我はそなたたちの中で最も強い者と一騎打ちを望む!!」
それを聞いて受けて立ったのは一人の男だった。
「ならば私が受けよう!!」
背中に巨大なクレイモアを背負った褐色肌に巨体の大男。
いかにも強そうな感じだ。
「貴殿は?」
「ドランド=ハウレンス!!貴様達を正すエリック様の軍の将軍だ!!我が相手いたそう!!降りてこい!!」
「相手にとって不足なし。」
アリエスはそのまま塔の上から飛び降り、地面に着く寸前で「浮遊術(フローティング)」と唱えて地面にゆるりと降り立った。
そして、すぐにその周りを兵士達が丸く取り囲みやがて半径5m程の円ができる。
その中に居るのはアリエスとドランドだけ。
これが、軍における正式な決闘のやり方だ。
円を取り囲んだ兵士達はそれぞれが剣や槍を中心に向ける。
もし逃げだそうとすれば殺されるし、汚い手を使っても同様だ。
戦いは一本勝負。相手が死ぬかあるいは負けを認めた場合に勝利し、滅多にないが双方力尽きたり、何らかの形で戦闘不能になったり、ありえないことだが和解したりすると引き分けとなる。
アリエスは一度剣を鞘に戻した。
そして鞘ごと腰から刀を抜く。
装飾されたナルシルの鞘が朝日を反射した。
「どういうつもりだ。」
ドランドは背中からクレイモアを抜き、構えを作る。
「鞘から刀を抜かぬつもりか?」
アリエスはただただ静かに答えた。
「貴殿の力を見よう。本気で掛かってくるがいい。」
「言ったな小僧!」



「初め!!」



残った2人の屈強な男達のどちらかがそう宣言した。
途端・・・
ドランドが一気にクレイモアを振りかぶり突っ込んでくる。
大きく振り降ろされた一撃は地面に食い込み・・・
大地を大きく掘削した。
「風包結界術(ウィンディ・シールド)。」
アリエスの周りを銀色の風が包み込む。風は土ぼこりを舞いあげ、やがてアリエスの姿を隠した。

外野に居た黒マントの男の一人が腰のナイフを抜く。
お世辞にも実用的とは言えない装飾の酷いナイフ。

そして、それを風に向けて一振り・・




一気に風が止んだ。




風は確かにアリエスの体を守護していたはずなのに・・・・

だが・・・

土埃がみるみる内に晴れていきその中にアリエスが姿を露わ・・・さない。
「―いない!?」
ドランドが大きく声を上げた。
瞬時・・・
ドランドの首元に剣が付きつけられる。
僅かに下を見ればそこには身を低くし、余裕の表情で自身の首に鞘を突き付けるアリエスが居た。
ドランドの背中を冷汗が一筋垂れる。
真剣だったら間違いなく勝負は決まっていただろう。
アリエスはそのまま身を半回転させ、鞘で強力な一撃をドランドの首に打ち込む。
ドランドの巨体が倒れ地面を揺らした。

残り2人を睨みつけアリエスは再び言う。
「言ったはずだ。本気で来いと。」

「小僧・・・少しはやるか?」

次の男は槍使いの男。長い金髪にちょっとオネエ系に見える中々の美青年だ。
「我が名はマーシャル。右将軍。あなたの心臓。私のグングニルの餌食にしてくれる。」
マーシャルが槍を解き放つ。
それを頭上でブンブンと二度振り回してからマーシャルは綺麗に下段の構えを取った。
アリエスもそれを見て静かに鞘からナルシルを解き放った。

「始め!」

その宣言と共にマーシャルの槍が一閃する。
間合いの長い槍の基本的戦術は剣では届かない中距離からの攻撃だ。言い方は悪いが、敵の攻撃が届かぬ所で自身は敵をいたぶる。
なら・・・
「疾吹風矢(ウィンド・アロー)!」
一本の風の矢が銀色の尾を引きながら真っ直ぐに向かっていく。
しかし、それを見ていた黒マントの男がまたもやあのナイフを抜いた。
途端にウィンド・アローが消滅する。

―やはりそうだ・・・。あのナイフ・・。シルフィリアから聞いたことがある。風殺しのスペリオル。風が得意というより、戦闘魔法は風しか使えないアリエスにとっては最悪の敵―

「油断禁物ですよ。」
外野の男がマーシャルに向けて一言忠告した。
マーシャルも「そうだな」と答える。
「外部が決闘に参加するのは違反じゃないか?」
アリエスの言葉にナイフを持つ男は静かに笑った。
「ただ私はナイフの波紋を見ただけです。」

そうくるか・・・ならば・・・
 「一閃必誅!!」
アリエスが刃に風を纏わせる。
そして
「白皇一閃(はくおういっせん)!!」
 一気に斬りかかった。
 (白皇一閃)は剣に風を纏わせてただでさえ斬れ味の鋭いナルシルの切れ味を数倍に上げる魔法攻撃。まともに命中さえすれば例え高位のミスリルで出来た武器ですら切り裂く程の切れ味を持つ。
 しかし、風を溜めるのに時間がかかり、さらにその間は意識を剣に集中させなければならない為、動きにキレが無くなってしまうと言うデメリットもある。
 相手はそれを難なくかわし、逆にこちらへ一閃の突きを見舞う。
 しかし、アリエスはこれを見切り、身をひねって避けた。
そして再びの
「白皇一閃」。
だが、これも相手に軽くあしらわれる。相手が連続の突きを見舞って来たため、アリエスは一時的に身を引いた。
 「なるほど・・・」
アリエスがニヤリと笑う。
陽動をして成功だった。

とりあえず、今の二撃でわかったことがある。

風を殺す相性最悪のあのナイフ型スペリオル。
あのスペリオルには落とし穴がある。
一つ目は極端に早い攻撃には反応できない時。
もう一つは魔力で練り上げた風がアリエスに空気以外で間接的に触れている時。
この2点の状況下ではどうやらあのスペリオルは役を成さないようだ。
ただ、この2つを槍という中距離戦闘兵器を相手にして護るのは至難の業。
先程試しに二回やってみたが、槍の間合いに注意しながらだと剣はどうしても僅かに鈍る。そのため相手に軽くかわされてしまう。
間合いの差は剣と槍では槍が有利だ。
なら・・・
「同じ舞台で踊らせてもらう。」
アリエスが構えを変えた。
「風包結界術(ウィンディ・シールド)。」
アリエスは再び銀色の風を纏う。

しかし・・・
 

それにナイフの男が反応した。


先程と同じく、風包結界術(ウィンディ・シールド)は消滅した。



いや・・違う。

風は消えることなく、アリエスの剣の中に溶け込んでいく。

ナルシルがキシッと僅かな悲鳴を上げる。

「オォオォォォォ!!」
アリエスが咆哮。そして刺突。剣に閉じ込められた風は一気に解放し切っ先から風が迸り・・・・・
剣撃が伸びた!!!
剣先からナルシルと同じ剣幅の風は真っ直ぐに伸び、やがてアリエスの手元に肉を貫く感触を伝えた。
風包結界術を応用した超長刀身斬撃魔法。
槍の如き、中距離刺突攻撃。
円の中に男の悲鳴が響いた。

同時に最後の男が背後から斬りかかってくる。
不意を突かれたモノの何とかナルシルの腹でその一撃を受け止めた。
先程までナイフを使って妨害していた男だ。
「お前の技・・なるほど・・風を自由に変形させ、それを自在に操る力・・・流石”剣聖”といった所か・・・」
「それはどうも・・・」
ギリギリと剣同士が鳴く。

「どうやらこのナイフの特性は理解しているようだな?」
鍔迫り合いをしながら男が聞いてくる。
「だが、このナイフにはもう一つ特性がある。それはその刀身に触れた風であればすべて無効化できる。先程までは外野だったから打ち消すことはでいなかったが今度はそうはいかんぞ!全ての風はこのナイフに触れてから一瞬で無効化する。」
一度刀を離して二撃目の鍔迫り合い。
「言い忘れてたな。我が名はエウロパ。左将軍だ。以後よろしくな。フィンハオラン卿!?」
剣が離れ、アリエスは一時的に間合いをとった。
さてどうするか・・・今度はナイフ。しかし、こいつよく喋るな・・。それに、自分の武器の特性をチャラチャラ口にするなんて信じられない。
ともあれ、ナイフは剣に以上に小回りが利き、使い勝手のいい武器である。
懐に入り込まれれば勝ち目はない。かといって長距離からの魔法はあのナイフに無効化されてしまう。
だが・・・
「風包結界術(ウィンディ・シールド)!」
なら見せてやるまでだ。たった一つの魔法だけを鍛え抜き応用を重ねた自分の力を。
かつてエーフェ帝国において剣聖(ソードエスカトス)とまで言われたアリエス=フィンハオランの実力を。
風は髪を撫でて背中で炸裂。
アリエスの体を一気に前方に吹き飛ばす。
前方にはエウロパの姿。
剣は矢尻、自分の胴体がシャフト、風が矢羽となってアリエスの体を一本の矢へと昇華させた。
剣はエウロパの右肩を貫くだけでは飽き足らず、彼を大きく後方へを吹き飛ばし、地面に数回バウンドさせた。
「うあああああああ!!!!!」
男の悲鳴が響き渡る。
のたうちまわる彼を尻目にアリエスはナルシルを一振りして剣の血を弾き飛ばした。
 「終いだ。」
 アリエスはナルシルを腰の鞘へと戻した。
 痛みに悲鳴を上げる3人の将軍たちとそれに絶句する周りの兵士達。
 「どうした?何か言いたいことがあるなら武具を持って参られよ。相手になろう。」
 ひと通り周りを見回してみるが掛かってくる相手はいなかった。
 やれやれ・・・根性が無い。
 「掛かって来ないならさっさと帰れ。お前達の負けだ。」
 アリエスがきっぱりとそう宣言し城へと帰ろうと踵を返す。
 

 「どうした!!敵はたかが一人の剣士だぞ!!」

どこからか声がした。
その声にアリエスが振り向くとそこには最後の一人と思われる士官が立っていた。
ロングの金髪に腰にはエアブレード。手には魔道書。
その顔はどことなくある男に似ていた。
「ファルカス・・・・」
アリエスがスッとその名を口にする。
しかし・・・
「全軍で掛かればこんな男一人大したことはない!!フェルトマリアとの戦いを見たろ!!奴だってこの男だって化け物とはいえ所詮は人間だ!!殺せ!!」
ファルカスは絶対にこんなことを言わない。
アリエスはすぐにナルシルを抜刀した。
でも、流石に一万八千ともなるとかなりキツイ。
シルフィリアならきっと瞬殺することもできるだろうが、流石に剣一本でこいつらと対峙するとなると・・・・しかも悪い事に周りを囲まれてるし・・・
仕方ない・・・・
たぶんまたシルフィリアに死ぬほど怒られるだろうな・・・と考えながらアリエスは胸のポケットのチェーンを引っ張りその先に付いた懐中時計を引っ張り出した。
敵が一斉攻撃を仕掛けてくる中でアリエスは時計の竜頭を押し込む。
刹那・・・
―アリエスが瞬間的に敵の輪の外に移動した。
そして・・・・
アリエスが通ったと思われる射線上の敵が一斉に血を雨のように降らせ地面に倒れこむ。
まるで何かに斬られたかのように・・・。
「な!なんだ!!」
そんな声がそこかしこから聞こえてくる。そして・・・誰かが「お・・おい・・・見ろ・・・あれ・・・・」と言った瞬間・・・
場の空気が凍りついた。
アリエスの刀から滴る血の雫。
まるで何が起こったのか分からない。一体何が・・・・
そして・・・
再びアリエスの姿が消えた。
今度は先程の金髪の男のすぐ後ろに・・・・
 そしてその射線上に居た人物すべてが・・・・体から血を吹きながら倒れていった。
 再び剣を大きく振り、血を弾き飛ばしてアリエスが言う。
「大丈夫だ。急所は外してある。出血量に反して命に別条は無い。」
 もう何が思ったのかなんか分かるはずが無かった。ただ、目の前の男が目にも止まらぬ速さで動き、その射線上の敵を切り裂いたという事実だけが目の前に横たわる。
 「ひ!ひるむな!!」
 その言葉に敵兵達は3度目の突撃を開始しようとする。
 せめてこの攻撃の真意を確かめようと・・・・
 
 全く無駄だというのに・・。
 アリエスもう一度竜頭を押し込んだ。


 
 時間が止まった。
 斬り掛かろうとした兵士、全てがそのままの格好で止まっている。
 倒れこむつもりで攻撃を仕掛けてきた兵士は倒れこむ寸前の格好で・・・・ジャンプして掛かってきた兵士は空中で静止している。
 その中でアリエスだけが動いていた。
 誰も動かぬ空間でアリエスは歩きながら、その通り道にいる敵に、相手に致命傷を与えぬよう慎重に、しかし、確実に斬撃を与えていく。
 そして敵の輪の外に出たところで竜頭を元に戻した。

 
時間が再び動き出す。
相手はまた訳も分からずただ倒れた敵を見て恐怖し、興奮していた。

「忘れられた時の時計(ザイス・クラーグ)」
フィンハオラン家に伝わり、代々その血を引く者だけが使うことのできる最強にして最珍のスペリオル。
今となってはこの世に二つとない、シルフィリアを以ってしても作ることのできない究極の宝具。
その効果は「ある対象の時間を戻す」ことができるというだけのものだから一種のタイムマシンといってもいいだろう。
その対象は何でも構わない。物にかければ壊れたモノが直り、人に使えばその分若返る。さらに応用として、連続で0.01秒戻し続けることにより、擬似的に時間を止めることができる。
しかし、その効果が絶大な分、払わなければならない代償はかなり大きい。
その代償とは・・・
寿命である。
戻した時間と使用した時間だけ使用している者・・つまりアリエスの寿命は減り続ける。
例えば、Aという物体を10年間戻した状態を1時間持続しようとすれば10年と1時間だけ寿命が減る。
例えば、先程のように時間を止めた場合は戻した時間と使用した時間が足される為、使用時間の約二倍の寿命がアリエスから削られていることになる。
その為、基本的に使用用途は後者だ。
 流石に何年も戻すとなると下手したら戻した途端に死ぬことだってありえる。
 だから後者でしか使用したことはないのだが・・・・
そもそも使用するだけでシルフィリアは激怒する。
 まあ、当たり前だろう。例え一回一回が数秒でも塵も積もれば山となる。すなわち、安心して使いまくってるとあっという間に何年も寿命が減っていた。なんてことにもなりかねない。
 シルフィリアとしてはアリエスに長生きしてずっと傍に居てもらいたい。大好きなアリエスにだけは命を削ってまでそんなことをしないでほしいという気持ちをアリエスが理解しているはずもないが、大好きなシルフィリアが言うのだからこれは最後の切り札としてしか使用しない。
 
 
 そして、相手・・つまり敵はそれを知らない。
 自分から見ればちょっと小走りで急所を外して斬りつけているだけなのだが、相手からすれば目にも止まらぬ速さで動いてたということになる・・・。
 言ってしまえば簡単なカラクリだ。
 まあ、失うモノの代償は大きいが・・・・

 「クソッ!!何だってんだ一体!?」
 先程まで余裕ぶっこいてた敵の大将も流石に慌てたようでやっと手に持った魔道書を開いた。
 魔道書が赤い光を放つ。
 「いくぞ!!火炎操波・・・・」
 その手から魔道書が消えた。
 「え?」
「探しものはこれか?」
アリエスの手には男の魔道書が握られていた。
「ウェンディ・シールド!!」
呪文を唱え、風の楯をかまいたちに変えて、魔道書を粉砕する。
「お!おのれ!!」
男は腰からエアブレードを抜き放った。
「覚悟!!」
鍔を持っての刺突攻撃。
だが・・・・・・
その程度の攻撃が「剣聖」に通用するはずがない。
アリエスは瞬間的に攻撃を見切って体を捻り、攻撃をかわし、そして・・・
剣の柄で敵の下腹部めがけて最高の一撃を打ち込んだ。
「!!!!!!!!」
声にならない悲鳴と嘔吐物を口から吐き出しながら男は地面に倒れこむ。
アリエスはそっと剣を鞘へと閉じた。

「大将を打ち取った!!これでも尚、俺に牙をむくと言うのであれば遠慮なくかかってくるがいい!!」

アリエスは大声でそう叫ぶ。
すると・・・・
「う・・うあぁぁああああ!!」
いきなり兵士達が逃げ出した。
軍というのは脆い。指揮官さえ倒してしまえば大抵の軍は制圧できるし、例え向かってきたとしても指揮系統の麻痺した敵なんか雑魚でしかない。
アリエスは大きくため息をつく。
なんとかここは片付いた。
さて、早くシルフィリアに知らせねば・・・・
城の中に内通者がいるかもしれないということを・・・・
疲れが残る体を動かしながらアリエスはゆっくりとシルフィリアの舞う東の空へと歩を進めた。



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